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ビーフ:キャプテンビーフ回顧録1 さくらの咲く頃に


あれは今から10年以上前の春の出来事。当時のビーフ青年は雑誌編集者として多忙を極めていた。締め切りに追われ、売り上げに追われ、睡眠時間さえ取れない毎日。そんな中でも社会人としての掟がのしかかる。


「会社の花見に参加せよ」非情な命令を受けたビーフ青年は、締め切り日にもかかわらず花見に参加する事に。当然印刷屋からの入稿催促電話は無視。場所は新宿の戸山公園。時刻は19時過ぎ。会社が用意した食べ物は乾き物のみというお寒い宴会。参加者の大半は、家にも帰らず風呂にも入ってないゾンビのような編集者たち。オマケにやたらと寒い。当時酒を飲めなかったビーフ青年はジュースを飲みながらひたすら乾きものを食べ続けた。


2時間後、「宴もたけなわ…」といったお決まりのセリフが聞こえてくる。「やっと仕事に戻れる」と身支度を始めた時だった。「おいビーフ、まだ帰るな。社長が各部署に声をかけて回ってるからそれまで待て」非情な掟がまたもやのしかかる。「その前にトイレに…」「ダメだ。もう社長がくる。後にしろ」


鳴り続ける印刷屋からの電話。モタモタしている社長。待ち続けるビーフ。鳴り続ける印刷屋からの電話。遠くでなぜか女子社員とあっち向いてホイをしている社長。腹が痛くなってきたビーフ。鳴り続ける電話、遠くでなぜか胴上げされてはしゃいでいる社長。腹がものすごく痛いビーフ。待つこと1時間。ついに我々の所に社長がやってきた。直立し社長の意味のわからない有難い話を聞こうとしたその時に全てが終わった。


奇妙な音と共に、ビーフ青年のブルーのジーパンにみるみる茶褐色のシミが広がる。広がる異臭、ざわつく仲間たち。引きつる社長。泣き出すビーフ。「ローソンでパンツを買いなさい」そう言ってそそくさと去っていった社長の目は氷のように冷たかった。


桜の咲く頃になると思い出す、我が素晴らしき人生のカケラ。

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